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大学の授業が終わったら、駅前広場で待ち合わせて。

そして、流行りの漫画の企画展を見るために美術館へ出発。

出発のはずだったんだけど。

間違えて反対側の改札を出てしまい、慌てて待ち合わせ場所に走って。


8分遅れで着いてみれば、
京一郎が知らない女の子に話しかけられているのが見えた。
アイラインと睫毛が目立つ、華やかな女の子だった。

会話の内容ははっきり聞こえない。
女の子がニコニコ笑っている。京一郎はいつもの仏頂面だ。

……どうやら、女の子は、遊びに行こうと京一郎を誘っているようだった。

……あれがいわゆる、逆ナンというやつか。


完全に出ていくタイミングを見失って、
わたしは広場の銅像の裏に隠れるように張り付いていた。
蝉のポーズだよな、これ。
わたしは蝉か。蝉なのか。


……今まで散々見慣れていたというか、考えたこともなかったけど。

東京のどまんなか、街ゆく人たちと見比べてみると、
京一郎はかなり見栄えがいい。
背が高い。姿勢がいい。
通った鼻筋に、切れ長の目。

そりゃ、蝶々みたいに可愛い子もいっぱい寄ってくるよなあ。
うん、寄って来ない方がおかしいよな。

「お前、何やってんだよ」

いつの間にか、不機嫌そうな顔の京一郎が目の前にいた。

「びゃっ!」

「変な声上げてんなよ。忍者ごっこのつもりかよ」

「あー、いや、蝉、じゃなくて。
 その、お取込み中だったみたいだし」

京一郎の眉間の皺が更に深くなる。

「……見てねえでさっさと声かけろよ。趣味悪い」

「あ、はい、すみません」

「さっさと行くぞ」

京一郎が差し出した手を、わたしは慌てて握った。

「並ぶんだろ、企画展」

「う、うん。平日でも1時間待ちだって」

「飲むもの買ってくか」

「おやつも買おうよ」

「そこまでいらねえだろ」

「でも1時間待ちだよ、飽きるよ」



飽きねえよ、お前がいたら。

雑踏に紛れちゃいそうな小さな声だったけど。
そう呟くのが聞こえた。




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