遙人くんの手は荒れている。
特に爪回りなんて、さかむけしていたりひび割れていたり。
「シアバター? それ、バターなの?」
「なんかアフリカの植物油らしいよ。バターだと思って食べたらまずかった」
「食べたんだ……」
以前ハンドクリーム使わないの? と聞いたらきょとんとされた。
男の子にはハンドケアなんて女々しい概念はないのかもしれない。
それでも痛々しく見えて気になってしまうので
遙人くんの手を手入れさせてもらうことにしたのが今日だ。
「はいはーい、手ぇ出してー。一度やってみると世界変わるよー」
「う、うん。お願い」
遙人くんの厚い手を取る。
シアバターを爪の根元に薄く乗せて、荒れた部分に塗りこんでいく。
乳白色の固形油は温かい肌の上でするすると融け染み込んでいく。
無言のまま手元に視線を落としていた遙人くんが、ぽつりと呟いた。
「……君はさ、手、小さいよね」
「わたしが小さいっていうか、遙人くんの手がおっきいんだよ」
「ううん、君が小さくて細い」
……なんとなく気恥ずかしくなる。話題、話題変えよう。
「唇も塗る? リップクリームの代わりにもなるよ」
「君も塗ってるの?」
「うん。これ使ってるよ。潤うよー。
お陰様でひび割れ知らず。ね、塗るよ塗るよ?」
「……ううん、口はいい」
「えー、乾燥治るよー。せっかくだから塗ろうよ」
「いいの。君に分けてもらうから」
どういう意味、と聞こうと開きかけた口が塞がれた。
すぐ目の前に長い睫毛が、伏せた目が。
遙人くんの顔がある。
……そういう、意味。
シアバターで潤った指が、そっとわたしの指に絡められた。
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